編集部注:この記事を書いてくれた高橋雄介氏はOpen Network Labの1期生で現在はベンチャー・パートナーを務めている。Open Network Lab在籍中の2010年11月に一人企業というソーシャルデータ分析のサービスを手がけるスタートアップを立ち上げている。現在は新しい広告ビジネスに取り組もうとしている。慶應義塾大学で政策・メディア博士を取得している。どこにでもレーサーバイクで現れる自転車好きでも知られている。この9月のシリコンバレーへの旅も現地では自転車で移動していたのだという。
機運に恵まれて、9月14日、Y Combinator(YC)のAd Innovation Conferenceに参加することができた。このイベントは、YCが主催する初めての革新的広告技術についてのカンファレンスで、YCの共同創業者であるPaul Grahamによるキーノート、YCがインキュベーションをする18社のスタートアップによる各チーム3分のプレゼンテーション、ネットワーキング・パーティによって構成されている。
一般公開されているイベントではあったけれど、聴衆としての参加者は(恐らく)招待されたゲストだけで満席になっていて、僕がそんなイベントに参加することができたのも、Open Network Labを通じて知り合って、ずっとアドバイスをくれているNils Johnson氏が口をきいてくれたおかげだった。会場となったマウンテンビューにあるYCのヘッドクオーターには、起業家、マーケティング担当者、メディア系企業、ベンチャーキャピタリストなどを含む200人近くの聴衆が集まっていた。
「サンフランシスコの人が沢山来てくれているようだね。バレーの人が広告に興味を持っているとうことだね。」
このPaul Grahamの冒頭の言葉にも現れているとおり、いま、新しい広告のあり方に注目が集まっている。
Paulは新しい広告のあり方が注目されている理由として、9つを挙げた。(1)タブレットがますます重要になること、(2)すべてクラウドにつながっていること、(3)ピア・ツー・ピアの技術に沢山のチャンスがあること、(4)たくさんのスタートアップが立ち上がっていっていること、(5)Facebookが大きなディールであること、(6)ソフトウェアを使っていなかったような会社が、ソフトウェアを使うようになってきていること、(7)より正確に細かくターゲティングできるようになったこと、(8)数字(データ)がずっと重要になっていること、(9)クリエイティブな広告表現がユーザーが作り出すコンテンツによって作られていること、だ。

興味深かったのは、たくさんのスタートアップが立ち上がっているという事実についての言及だ。「今後、大学卒業後にスタートアップをするのがより一般的な取り組みになってくると、大企業は、創造性と知性にあふれた小さな企業に、前よりずっと興味を持つようになる」。
そして、そうした社会状況の中で、広告ビジネスについては、どんな会社を始めたらいいのかというと、Paulによれば、「成功していく広告企業は、広告に取り組んでいる“ソフトウェア企業”であって、数人のプログラマーを雇っているだけの“広告企業”ではない」。つまり、コアになるテクノロジーを持っている会社に勝機があるというのだ。Paulは、これは「大きな違いだ」と何度も強調していた。
そうすると、ソフトウェアやテクノロジーが広告事業の中核になるので、数字とデータを活用することによって、「より正確に細かくターゲティングできるようになる」。そして、「創造性と定量評価は相反するものではなくなって、ありとあらゆる情報について、計算することができて、ユーザーに応じて個別の情報を伝えることができるようになる」のだ。たとえば、「“どのロゴを使うか”でさえ数字に基づいて判断されている」。
つまり、今までになかったような、さまざまな環境やインフラの変化が、新しい広告のあり方を可能にしており、大きなチャンスが目の前にある、ということだ。
Ad Innovationはどこにあるのか
Paulのキーノートの後に、革新的広告テクノロジーについて以下の企業を含むYCがインキュベーションをする18社のスタートアップによる発表があった。
- Ginza Metrics
- TagStand
- vidyard
- crowdbooster
- Optimizely
- Loopt
- Mixpanel
- Paperlinks
- PageLever
- GazeHawk
- MixRank
- Polleverywhere
- DoubleRecall
- TwitchTV
彼らの発表を聞きながら感じたことは、広告におけるイノベーションは、何か特別な劇的な変化や発明によってもたらされるのではなくて、ちょっとした発想の転換によるものや、既存の社会やインフラの延長上にあるものが大きいのではないかということだ。
たとえば、DoubleRecallは、新しいタイプの、reCAPTCHAに似た広告表現を提供するプロダクトで、ウェブサイト内のプレミアムコンテンツなどにアクセスする際に広告を表示し、その広告内のテキストをタイプさせることによって、コンテンツへのアクセスを許可するとともに、ユーザーに広告主のブランドを覚えてもらう。ユーザーに実際に文字を入力させることによって、バナー広告の12倍の収益を実現する。これまで広告媒体とならなかったような場所でも、このように、アイデア次第で新しい広告の表現を創ることができる。これによって、インターネット上で広告を出稿できる媒体を増やすことができて、ブランドがユーザーを獲得する機会を増やすことができる。
また、Crowdboosterはインテリジェントなソーシャルメディア・ダッシュボードを提供する。これは、単にソーシャルメディア上のデータの集計をするだけではなくて、企業のソーシャルメディア担当者に、たとえば、ツイートすべき時間の提案や、返信をし忘れている重要なユーザーを思い出させてくれる。 ソーシャルデータの解析とそこから新しいバリューを生み出す仕組みは、ソーシャルメディアが社会情報基盤としての地位を確立しつつある今、ますます重要性が増してきている一方で、様々な方法での参入の余地を残している分野でもある。

(CrowdboosterのRicky Yean)
さらに、新しい時代の新しいニーズに対して、それを補完する機能を提供することで、既存のプラットフォームに付加価値を追加したり、不足を補うようなサービスにも大きなチャンスがある。Ginza Metricsは、広告主と広告代理店にSEOをグローバルに最適化するためのプラットフォームで、たったの5分の設定で、企業内での利用に最適化したスケーラブルなSEO環境を構築することができる。また、Vidyardは、企業のためのYouTubeを使ったキャンペーン環境構築ツールであり、YouTubeだけではできないような映像コンテンツの管理機能や、YouTubeのビデオ公開時のプッシュやプルの機能、リアルタイムでの視聴状況のモニタリング機能などを提供している。
チャンスは僕らの手のなかにもある
考えてみて欲しい。YCのスタートアップが示したイノベーションは、どれも素晴らしいアイデアと技術で問題を解決するものではある。けれど、それらは、僕らの周りにある既存の社会やインフラの延長上にあるものや、ちょっとした発想の転換によるものにすぎない。イノベーションのジレンマは、スタートアップや、スタートアップ的な実践によって打ち破ることがことができる。
余談だが、僕のサンフランシスコ滞在期間中に、広告代理店の人なら誰もが読んでいる雑誌Advertising Ageが、Ad Age Digital Westというカンファレンスを初めて開催した。このことは、これまでニューヨークやロサンゼルスのような大都市に集中していた大手の広告主や代理店が、シリコンバレーの新しい広告技術やプロダクトに注目をしているということではないだろうか。
いま、NFCやQRコードのように日本の企業にとって長年の経験が活かせる領域も注目されている。日本企業を含むすべての企業に、広告にイノベーションを起こす大きなチャンスがあるのだ。
Alexa Lee(@xo)が、当日の写真を送ってくれた。Alexaありがとう!(彼女のレポート記事はこちら)。